ルナタスピスLunataspis)は、約4億5,000万年前のオルドビス紀後期に生息した化石カブトガニ類の一属。三日月型の背甲と部分的に分節した体をもつ。既知最古のカブトガニ類の1つで、カナダで見つかった2種が知られている。

名称

学名「Lunataspis」はラテン語の「luna」(月、三日月)とギリシャ語「aspis」(盾)の合成語であり、三日月型の大きな背甲に因んで名付けられた。模式種(タイプ種)の種小名「aurora」はラテン語で「夜明け」を、2つ目の種の種小名「borealis」はラテン語で「北方」を意味する。

形態

全長が4cm前後、尾節を除いた体長が3cm以下の小型カブトガニ類である。Lunataspis aurora は全長約4.2cmで体長約3cmであるが、Lunataspis borealis は全長3.7cmで体長約2.4cmである。大まかな姿は派生的なカブトガニ類に似ているが、後体には派生的なカブトガニ類に見当たらない分節を部分的にもつ。

背面構造(背甲・背板・尾節)のみ明瞭に記載される。前体の脚や後体の蓋板(operculum)など、付属肢(関節肢)由来と思われる構造が既知の化石標本で痕跡的に見られるが、詳細は不明。

前体

先節と第1-6体節の融合でできたとされる前体(Prosoma)は幅広い背甲(carapace)に覆われ、縁辺部が分化しており、両後側の棘(頬棘 genal spines)が後ろ向きに曲がって三日月の形を描く。両背面の眼部隆起線(opthalmic ridges)には1対の側眼(複眼)があり、その前方中央には1対の中眼(単眼)と思われる構造体がある。Lunataspis borealis の場合、背甲の後方中央(心域 cardiac lobe)に1個のこぶがある。

後体

後体(opisthosoma)は前体より小さく、左右が前体の頬棘に囲まれる。前体と融合したと思われる最初の1節(第7体節)を除いて、順に幅広い前腹部(preabdomen, 中体 mesosoma)と細い後腹部(postabdomen, 終体 metasoma)として明瞭に区別される。前腹部は8節を含まれるが、最初の2節以外では融合して thoracetron をなし、それぞれの背板(tergite)の境目は一連の溝・隆起線・左右の出っ張り(肋部 tergopleura)によって表れ、中央(軸部 axial region)は体節ごとに1個のこぶがある。前腹部最終体節の境目は thoracetron の縁辺部に連続している。後腹部は細い円柱状で分節した4節を含め、そのうち最後の1節(pretelson)が特に長い。これにより、ルナタスピスの後体は見かけ上12節、前体と融合した最初の1節まで含むと13の節の体節からなるとされる。尾節(telson)は剣状で三角形の断面をもつ。

発育

Lunataspis borealis の場合、体長約2.4cm(全長3.7cm)の大型個体と1.35cmの小型個体の化石標本が見つかり、それぞれ成体/亜成体と幼体であったと考えられる。これらの個体の特徴を基に、ルナタスピスは発育が進むほど背甲の頬棘が短縮し、側眼が後方から中央へ移行し、前腹部が円形から四角くなり、thoracetron における体節の境目とこぶが目立たなくなると推測される。この発育様式は複合的で、後体の変化はカブトガニ亜目のカブトガニ類に似ているが、前体の変化はむしろウミサソリに似ている。

分類

幅広い背甲・融合した体節をもつ後体など、ルナタスピスの多くの形質は派生的なカブトガニ類(カブトガニ亜目 Xiphosurida)に似ているが、派生的なカブトガニ類は後体全ての体節が癒合して1枚の thoracetron を構成するのに対して、ルナタスピスのそれが完全でなく、最初2節と最終4節は基盤的なカブトガニ類を含むハラフシカブトガニ類(synziphosurine)のように分節していた。この中間的な性質により、ルナタスピスは Kasibelinurus などと共に、ハラフシカブトガニ類より派生的なカブトガニ類に近縁とされるが、その完全に融合した後体を進化する前の基部系統から分岐した基盤的な種類であると考えられる。

ルナタスピスは KasibelinurusElleria などと共に Kasibelinuridae科に含まれるが、この分類体制は便宜的で、カブトガニ亜目以外の狭義のカブトガニ類をまとめた側系統群である。

ルナタスピス(ルナタスピス属 Lunataspis)はカナダのオルドビス紀後期の堆積累層のみから発見され、次の種が知られている。

  • Lunataspis aurora Rudkin et al., 2008
    • 本属の模式種(タイプ種)。L. borealis に比べると、側眼はより後方に配置され、心域にこぶはない。マニトバ州のヒルナント期の堆積累層(約5億4,500万年前)から発見される。
  • Lunataspis borealis Lamsdell et al., 2022
    • L. aurora に比べると、側眼はより途中に配置され、心域に1個のこぶがある。オンタリオ州のサンドビアン期の堆積累層 Gull River Formation (約4億6,090万 - 4億4,900万年前)から発見される。

発見の意義

最古級のカブトガニ類

ルナタスピスが発見される以前では、基盤的なカブトガニ類を含んだハラフシカブトガニ類はシルル紀(約4億3,000万年前)からデボン紀(約4億年前)の種類のみによって知られ、派生的なカブトガニ類も石炭紀前期(約3億5,000万年前)のものが最古であったため、派生的なカブトガニ類に至る系統はデボン紀-石炭紀ごろでハラフシカブトガニ類から分岐していると考えられた。そのため、オルドビス紀後期(約4億6,090万 - 5億4,500万年前)に生息し、派生的なカブトガニ類に似通う姿をしたルナタスピスの発見は、この説を覆し、カブトガニ類は遅くもオルドビス紀で他の鋏角類と分岐し、そのごろで既に派生的なカブトガニ類に近い形質を進化したことを示唆する。また、ルナタスピスより少し早期なオルドビス紀前期(約4億8,000万年前)に生息したハラフシカブトガニ類ものちに発見され、従来では系統関係に一致しない化石記録のギャップを埋まれた。

カブトガニ類の後体体節数

Lunataspis borealis が発見される以前では、カブトガニ類の後体は長らく全般的に11節以下と考えられた。ルナタスピスの見かけ上12節で実際13節の後体が知られることにより、少なくとも一部の古生代カブトガニ類はこれほど数多くの体節をもつことが示唆される。

カブトガニ類の祖先的な発育様式

ルナタスピスの発育様式は複合的で、前体がウミサソリ(側眼が後方から中央へ移行、頬棘が短縮)に、後体がカブトガニ亜目の種類(thoracetron が四角くなり、体節の境目と突起が目立たたなくなる)に似たとされる(前述参照)。ルナタスピスの基盤的な系統位置(カブトガニ亜目より早期に分岐)を踏まえると、このような複合的な発育様式はカブトガニ類の祖先形質であることが示唆される。

脚注

注釈

出典

関連項目

  • カブトガニ類
  • ハラフシカブトガニ類

ルナタスピス 1

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ルナ

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